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2022.07.27

ボカロPとVOCALOID ピノキオピーさん編 〜初音ミクが持つ「心ここにあらず感」〜

ヤマハが開発した歌声合成技術、「VOCALOID(ボーカロイド)」。2003年のリリース以来進化を続け、現在はVOCALOID5に。また、各社よりVOCALOID向けのボイスバンクが発売されています。歌声合成技術を用いて作られたバーチャル・シンガーが歌う音楽としてジャンル「ボカロ」が確立され、今では日々多くのボカロ曲が投稿され、愛されるようになりました。ボカロ文化を支えるボカロPとヤマハが開発した歌声合成技術VOCALOIDの出会いや関係性を紐解くスペシャルインタビューが「ボカロPとVOCALOID」。

 

今回は新曲の「転生林檎」や「神っぽいな」など若年層を中心に絶大な人気を誇るボカロP、ピノキオピーさんにお話を伺いました。

ピノキオピーさんプロフィール

 

2009年に動画共有サイトにてボーカロイドを用いた楽曲を発表し、ピノキオピーとして活動開始。

以降も精力的にオリジナル楽曲を発表しつつ、イラストやMVの制作、他アーティストへの楽曲提供など多方面で活動している。

ライブでは電子と肉体の共演・融合を基軸に、ドラムとスクラッチ&サンプラーをサポートメンバーに加えたバンドセットでのパフォーマンスを行っている。

Official Website / Twitter

 

 

<2022年6月に公開され、すでに多くの人に愛されている新曲「転生林檎」>

ダブルラリアットを聞いて気づいたVOCALOIDならではの魅力

Y:VOCALOIDをどこで知りましたか?

 

ピ:2007年頃、ニコニコ動画でゲーム実況とかを観ていたんですけど、オススメとしてVOCALOIDの投稿が出てきて知りました。なんとなく流行りだしているんだなというのを感じましたね。

 

Y:自然とVOCALOIDと出会ったんですね。一番最初に聞いたボカロ曲を覚えていれば教えて下さい。

 

ピ:たぶん「みっくみく」です。あとは専門学校の時の友達に「ハト」っていう曲を勧められて、自分の中でボカロ曲がより身近になりましたね。

 

Y:当時、VOCALOIDにはどのような印象をお持ちになりましたか?

 

ピ:最初に聞いた時は具体的にVOCALOIDで曲を作ることは考えていなかったんです。なんというか、オモチャ的に楽しまれているなという印象でした。

 

Y:確かに当時のボカロシーンはオモチャ的な側面はあったように思います。機械っぽい、人間ではない声に抵抗感はありましたか?

 

ピ:抵抗はなくて、面白いなっていう感じでしたね、こういうのが出てきたか!っていう。その頃から電気グルーヴとかAphex Twinとか打ち込みのピーキーな音楽を好んで聞いていたので、すんなり入れたのかもしれません。

 

Y:ボカロ曲を投稿することはいつ頃から考えるようになったのでしょうか。

 

ピ:アゴアニキさんの「ダブルラリアット」とか、泥臭いことを歌わせた曲が出てきたんです。それから自分の泥臭い部分を歌わせてもいいというVOCALOIDの新たな魅力に気づいて、ボカロ曲を作ることを考えるようになりました。

知らない人がくれた「面白い!」というリアクション

Y:ボカロ曲を作ろうと思った具体的なきっかけを教えて下さい。

 

ピ:友達と朝まで飲んでて、帰りの駅で「曲作るのにボカロやんないの?」って言ってきたんですよ。「そっかぁ。」と思って(笑)。そこがきっかけですね。その後量販店のDTMコーナーで初音ミク(V2)を買いました。CherryというフリーのMIDIシーケンサーにメロディを打ち込んで、そのMIDIデータをボカロエディタに読み込ませたら、メロディ通りに歌ってくれて。「これは行ける!」って。その時の感動は忘れられないですね。

 

Y:最初に初音ミクの声を出した時はどんなことを思いましたか?

 

ピ:ニコニコ動画で観ていた有名曲と同じ感じに歌わせられるのかと思ったら、全然そんな感じになりませんでしたね(笑) VOCALOIDだけではなくて、音の作り方とかも何も知らなかったんです。ミクの声が細くて、オケに負けちゃうからってミクを増やして、ハモリ作ってたんですけど、今考えると全然ハモってなかったですね(笑)。なんとかしていい感じにしようと色々頑張っていたのを覚えています。

 

Y:作曲は昔からしていたのでしょうか?音楽歴を教えて下さい。

 

ピ:小学校6年生くらいからスピッツが好きだったんです。曲だけじゃなくてジャケットとか歌詞カードとかのパッケージも好きで、スピッツを聞きながら自分のCDを作ったらこんな感じっていうのを想像してノートに書く、ということをやっていたんです。歌詞も書いて、メロディも頭の中では考えていました。高校生になった時にギターを買って、スピッツのチェリーを練習しました。そこでコード進行っていうのがあれば曲が作れるというのを知りまして、4トラックのカセットMTR※を買いました。そのMTRで曲を作ったのが最初の作曲経験ですね。でもバンド活動などはせずに、できた曲を友達に聞かせて終わり、という感じで。その後パソコンでの録音も覚えましたけど、基本的にはずっと一人で曲を作っていました。

※MTR:マルチ・トラック・レコーダー。複数のパートをバラバラに録音することができる音楽制作用の録音機。

 

Y:その時に作った曲は友達しか聞いていないんですね。

 

ピ:音楽投稿サイトに投稿しましたけど、全く聞いてもらえませんでしたね(笑)。でも自分では面白い曲が作れている、根拠のない自信はあったんですよね。それでボカロ曲をニコニコ動画に投稿してみたら、投稿した瞬間に知らない人にコメントをもらえることがすごく衝撃的でした。知らない人が面白い!ってリアクションをくれるんです。その時の感動が今でも曲を作る原動力になっています。

カッコいいこともキツイことも「心ここにあらず感」で中和する初音ミク

Y:VOCALOIDも進化を続けてきたわけですが、最も感動したバージョンアップや製品リリースを教えて下さい。

 

ピ:MIKU APPEND※が出た時はすごく感動しました。初音ミクSOLIDが出てきて、声を張ってる感じが出せるようになったのは嬉しかったですね。その後ではV4の時に追加されたクロスシンセシスですね。SOFTからSOLIDまで混ぜることができるというのが嬉しかったです。今でも使っています。

※MIKU APPEND:初音ミクに様々な声の表情を加えるための追加音声ライブラリー・パック

 

<当時購入された初音ミクのパッケージ>

Y:歌声合成は人間っぽい歌い方ができるように、表現力が高くなるように進化してきていますが、人間っぽくなることについての考えをお聞かせください。

 

ピ:僕自身は人間っぽいVOCALOIDを突き詰めたいとはあまり思っていなくて。人間じゃないものが歌っているイノセント感というか、不気味さというか、僕はそういうものにきらめきとか可能性を感じているんです。あとはそもそも声の表情をつける調声が僕には向いていないというか、出来ないというか。Mitchie Mさんの調整技術とか、本当に尊敬しています。

 

Y:ピノキオピーさんが感じるVOCALOIDの可能性について、詳しく聞かせてください。

 

ピ:率直に言うと、最初に聞いた時の印象は「歌詞が聞き取れない」という印象で(笑)。最初は人じゃないものが歌っているという面白さのみで捉えていました。でも、次第に人間ではないから出てくる魅力というか、だからこそ表現できるものがあると思うようになりました。僕の場合は俯瞰した視点で歌詞を書くことが多いので、そういう歌詞に抜群に合うんです。そのニュアンスが本当に面白いと思ってます。漫画のキャラクターに喋らせるように歌わせることができるんですよ。

<ピノキオピーさんはイラストも手がけています。こちらはアイマイナちゃん。>

<アイコンのイラストもご自身で描かれたもの。>

Y:皮肉めいた歌詞、厭世的な歌詞が多いと思いますが、それはVOCALOIDだからこそ歌える歌詞なのでしょうか。

 

ピ:それもあると思います。でも皮肉を言ってやろう!とか一石を投じてやろうとかは思っていなくて、面白いと思うけど、どう?みんな。みたいな感じです。そもそも厭世的な音楽とか面白さを感じる音楽が好きなんです、筋肉少女帯とか。スピッツの初期の曲もそういうところがあって。そういう音楽を聞いた時に普段得られている価値観を揺さぶられるんです。あとは漫画でも藤子・F・不二雄さんが好きで、大人向きの怪奇短編があるんですけど、やっぱり厭世的なところがあって。それを小学校の時から読んでいたので、影響は受けていますね。そういう音楽性を受け止めてくれる、というニュアンスです。

 

Y:ピノキオピーさんの音楽を表現する上では、やはり初音ミクが良いのでしょうか。

 

ピ:ミクの魅力として、コレを言うと語弊を招くんですけど、間が抜けてるというか、「心ここにあらず感」が段違いに強いんですよ、他のボイスバンクに比べて。カッコいいことを言ってもキツイことを言っても「心ここにあらず感」で中和されるというか、無効化されるというか。それがすごく好きなんです。

 

Y:VOCALOID、初音ミクが無かったらピノキオピーさんの音楽は表現できないものだったかもしれませんね。

 

ピ:僕が歌ったり、誰かに歌ってもらったりしていたら、今のピノキオピーという感じは出ていなかったと思います。歌ってもらうとなるとその人に合わせちゃうだろうし。歌詞にブレーキがかかっちゃうと思うんですよね。だから、VOCALOIDがなかったら表現できていなかったなと。本当にそう思います。

VOCALOIDとともに成長して今がある

Y:ボカロ文化に関わるようになって印象に残っていることを教えて下さい。

 

ピ:ボカロ初期の、VOCALOIDというカテゴリにPOPSの人もメタルの人もいるっていう、ジャンルの垣根が無いカオスな時期の交流が刺激的でした。初音ミクが歌うというだけで全部のジャンルがひとつになるっていう奇跡みたいな空間はすごいなと思いましたね。

 

Y:今でも一緒に活動している方はいるのでしょうか。

 

ピ:バラエティが好きという理由で鬱Pとはずっと仲がいいです(笑)。ボカロがきっかけというか、ボカロを始めてから知り合った人に教えてもらったことが本当に多いんです。ボカロをやりながら音楽を学んできたというか。

<鬱Pさんによる神っぽいな のアレンジバージョン「गणेशっぽいな」>

 

Y:ピノキオピーさんは最初からなんでも詳しい人みたいなイメージがあったんですが、ボカロとともに成長してきたというのは意外です。

 

ピ:本当に最初は何も知りませんでした。VOCALOIDと一緒に成長して今に至ります。

 

Y:最後に、これからボカロPを目指すクリエイターにメッセージをお願いいたします。

 

ピ:いま、曲を発表する場としてSNSの存在は必要不可欠になってきて、より多くの人に見られるための工夫をすることが増えてきたと思うんです。でも、「他の人はやらないけど自分は面白いと思う」という部分をちゃんと出してもらえたら嬉しいですね。自分が面白いものを突き詰めるということで、曲に宿る力が出てくるんじゃないかなと思いますし、作っている人のためになるんじゃないかなって。今の時代だからこそ大事なことだと思います。

 

Y:本日は素晴らしいお話、ありがとうございました。

 

ピ:こちらこそ、ありがとうございました。

記事制作協力:合同会社SoundWorksK Marketing


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