2023.07.25

ボカロPとVOCALOID r-906さん編 ~VOCALOID に近づきたくてスマホだけでボカロPに~

ヤマハが開発した歌声合成技術、「VOCALOID(ボーカロイド)」。2003年のリリース以来進化を続け、現在はVOCALOID:AIも搭載したVOCALOID6に進化。また、各社よりVOCALOID向けのボイスバンクが発売されています。歌声合成技術を用いて作られたバーチャル・シンガーが歌う音楽としてジャンル「ボカロ」が確立され、今では日々多くのボカロ曲が投稿され、愛されるようになりました。ボカロ文化を支えるボカロPとヤマハが開発した歌声合成技術VOCALOIDの出会いや関係性を紐解くスペシャルインタビューが「ボカロPとVOCALOID」。

今回は、ドラムンベースなどダンスミュージックをベースとした楽曲を得意とするr-906さんにお話を伺いました。

r-906さん プロフィール

ボカロP。体が動き出すような曲の制作を得意とする。
代表作は『パノプティコン』『三日月ステップ』『まにまに』『ノウナイディスコ』など。
公式デモソングや映画主題歌の書き下ろし、歌い手への楽曲提供、DJライブなど幅広く活動している。

『三日月ステップ 2023』

ボカロ曲から得られる背徳感

Y:最初に、VOCALOIDとの出会いについて教えて下さい。

r:実は、VOCALOIDの出会いが2回あるんです。初めての出会いは中学生の頃、同級生がカラオケでボカロ曲を歌っていたのを聴いたこと。友人が歌っていた曲は「カゲロウデイズ」とか、そのあたりですね。その頃はインターネットに触れる機会もなく、「カラオケでよく聴く不思議な曲」という認識でした。

歌は友人でしたが、歌詞も独特で一般的なJ-POPとは作りが違っていたので、「ボカロ曲」というジャンルがあるんだな、という認識がそこで生まれました。

※カゲロウデイズ : 2011年に投稿されたじんさん(自然の敵P) の3作目。2013年にはトリプルミリオンを達成。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190

高校に入ってスマホを手に入れてインターネットに触れるようになり、ニコニコ動画で聴いた「人生リセットボタン」が2回目の出会いです。その次に聴いた日向電工さんの「ムーンウォークフィーバー」で完全にVOCALOID沼に落ちました。

※人生リセットボタン : 2011年に投稿されたkemuさんのボカロデビュー作。2012年にミリオンを達成。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm16110005

※ムーンウォークフィーバー : 2016年に投稿された日向電工さんの8作目。2023年にミリオンを達成。https://www.nicovideo.jp/watch/sm30159740

Y:ボカロ曲を最初に聴いた時の印象はどうでしたか?

r:「なんだこれ?」という、むしろ苦手な印象でした。訳の分からない早口の歌詞で、触れてはいけないもの、アンダーグラウンドの世界のような印象すらありました。

でもその影響で、高校に上がってボカロ曲を聴き始めた時に背徳感があったんです。触れてはいけないと思っていたものに触れている、少し大人になって自由に行動ができているということに妙なワクワク感があったんです。今まで秘密にされていたものを見られるような…そして、それが今も続いていて、背徳感が今の制作の楽しみの一つにもなっています。

Y:触れてはいけないと思っていたものに触れたきっかけは何だったのでしょうか。

r:日々のストレス、うっ憤ですね(笑)。毎日うまくいかないなぁとか勉強ばかりでつまらないなぁとか。ストレスを発散したいと思って、思い切って危ないことをしてみたら素敵な世界で一気にハマってしまいました。

一番好きだったのは日向電工さん。他にもナユタン星人さん、かいりきベアさん、…一気にハマったこともあり、自由に色々なボカロ曲を聴いていましたね。

現在所持している楽器。
手前からギター、ベース、DJミキサー

初音ミクは歌がうまくなる?VOCALOIDに近づくためにボカロPに。

Y:リスナーからボカロPになったきっかけを教えてください。

r:これも2つあって…技術的なきっかけと、精神的なきっかけがあります。

実は高校では軽音楽部に入ったんです。父親がギターを弾いていたので子供の頃からその姿を見ていました。あとは、イギリスのColdplayというアーティストのライブ映像を見てベースがかっこいいなと思っていました。だから高校ではベースを弾いてみたい!という思いで軽音楽部に入部したんですが、軽音楽部で人気だった曲がとことん自分の好みと合わなくて(笑)。結局不完全燃焼で終わりました。

物足りないなと思っていたところに、iPhoneの「GarageBand」というアプリと、「Mobile VOCALOID Editor」というスマホでVOCALOIDが打ち込めるアプリの存在を知って、この2つがあれば自分でも曲が作れるんじゃないか?と作り始めたのが技術的なきっかけです。

Garage Bandで作曲していた頃に使用していたiPhone

当時、「Mobile VOCALOID Editor」の開発者インタビューの記事を読んだんです。そこに「このアプリを使ってボカロPとして羽ばたいていく人が生まれてきてくれると嬉しいです」というコメントがあって、自分がそれになろうと思って始めました。

Y:精神的なきっかけも教えてください。

r:リスナーとしてボカロ曲を聴いていたんですが、だんだん物足りなくなってきたんです。

VOCALOID、特に初音ミクは声も好きですがキャラクターも好きで…でも、聴くだけではVOCALOIDに近づき切れていない、もっと近づきたい、という意識が芽生え始めたんです。

VOCALOIDはアニメと同じように二次元のキャラクターですが、アニメのキャラクターはその作者が作り上げる世界の中にいる、ある種一方通行のものだと思うんです。でも、VOCALOIDは自分が作ることで、自分からキャラクターに関わることができる。キャラクターにもう一歩踏み込んだ関係性を築ける文化なのではないか、それが羨ましいな、と思ったのが精神的なきっかけです。

ある時家電量販店でイヤホンを買ったのですが、その袋の中に警察と初音ミクがコラボしているチラシが入っていたんです。そのチラシが、初音ミクに落ちた最後の一押しでした(笑)。技術的なきっかけと、この精神的なきっかけの2つのタイミングが重なり、曲を作り始めました。

Y:Mobile VOCALOID Editorだけで制作した曲はありますか。

r:最初に作った曲は2018年4月27日にニコニコ動画に投稿した「夢遊病ダンサー」という楽曲だったんですが、そこから9作目の「夜が引いていく」までiPhoneとGarageBandと Mobile VOCALOID Editorだけで作っていました。よく、「iPhoneだけで!?」と驚かれるんですが、「パノプティコン」もスマホで完結しています。

GarageBandに残るパノプティコンのプロジェクト

Y:「パノプティコン」は私も大好きな曲なんですが、あの音作りをスマホでやっているということに今びっくりしています…!

r:電車酔いするタイプだったので苦労しましたが、大学に行く電車の中で作ったこともあります。曲を作りたいモチベーションが高くて熱中して作っていました。

夜が引いていく
パノプティコン

Y:r-906さんの楽曲はドラムンベースやハウスをベースにしたものが多いと感じていたんですが、先ほどのお話では、元々は軽音楽部であったと。クラブミュージック系のサウンドになっていった理由はあるのでしょうか。

r:自分が一番好きなバンドがサカナクションで、彼らはロックとダンスミュージックを融合させるようなスタンスですよね。サカナクションに出会い、少しずつダンスミュージックの要素に触れていきました。今、自分が曲を作る時にも、聴いていて自然と体が動く、踊りたくなるリズムを意識して制作しています。

Y:なるほど、サカナクションの影響なんですね。納得しました。サカナクションで一番好きな楽曲はなんですか?

r:人にお勧めするなら、という観点でいくと「ユリイカ」ですね。サカナクションらしさが一番凝縮された曲だと思っているので。

サカナクション - ユリイカ (MUSIC VIDEO)
サカナクション好きが高じてVo.山口一郎氏が使用している物と同じDJエフェクターを探して揃えたそう

Y:ボカロPになって注目度が高まった瞬間は覚えていますか?

r:やはり8作目となる「パノプティコン」ですね。その頃は投稿しても多くて7,000再生くらいで、自分が曲を作ってもあまり聴いてもらえないのかな…と思い始めて。次作で振るわなかったらもうやめちゃおうという思いで「パノプティコン」を出したら、注目していただけたんです。

Y:「パノプティコン」が注目された要因は何だと思いますか?

r:もう最後だし、好き勝手やってやろうとタガが外れたといいますか…自分が一番かっこいいと思うもの、自分が一番びっくりするものを作ってやろうと。とにかく自由に好きなことをやった曲ではあります。もしかしたらそういう想いがリスナーに届いてたのかもしれませんね。吹っ切れて思いの丈を叫んだ方が、熱意は伝わるんだな、という経験になりました。

Y:VOCALOIDの文化に関わるようになって感動したことを教えてください。

r:初音ミクって歌上手くなるんだ、成長するんだ!っていうことです。

初音ミクは時々急に歌が上手くなるんですよ。自分の技術が向上したということではあると思うんですが、ミクが成長したという風に感じますね。こちらから近づくのと同時に、VOCALOIDからもこちらに近づいてくれたと感じる、お互いに歩み寄れた感動があります。

r-906さんの現在の制作環境

「初音ミク」という概念とこれからのVOCALOID文化

Y:ボカロ曲制作でのこだわりがあれば教えてください。

r:子音の発音は人間らしく、ロングトーンは機械っぽくする、という、人間とVOCALOIDのそれぞれ得意なところを併せ持った存在というか。人間らしくもあり、機械らしくもある、というところを目指しています。

Y:一番好きなボイスバンクと、そのポイントを教えてください。

r:一番好きなのはやっぱり初音ミクです。好きなところは…ビジュアルも声も好きですけど、初音ミクという概念、文化でしょうか。

自分がVOCALOIDに対して新参者なので、そういう立場からすると初音ミクというのは既に完成された、普遍的で巨大な文化です。でも、新しく入る人でも強大な力を自分の手に入れることができて、不思議な関係性も築ける。そこが好きなポイントです。今後もミクにはずっと残り続けてほしいですし、自分たちボカロPも絶やさぬよう頑張っていきたいとも思っています。

ニコニコ超会議2023でのDJの風景。手前がr-906さんのDJミキサー

Y:最後に、これからボカロPになりたい人、VOCALOIDで曲を作ってみたい人にアドバイスをお願いします。

r:自分が好きなことをしっかり把握しておくこと、でしょうか。自分もそうだったんですが、最初の頃は何がやりたいのかだんだん分からなくなってくることもあると思います。人にたくさん聴かれたいのか、自分が好きなことをやりたいのか、曲が作りたいだけなのか、人気者になりたいのか。好きなことは何なのか、何が好きで曲を作っているのか、という一本の芯を大切に持っておいた方が良いと思います。

Y:お話を伺って、改めてVOCALOIDの文化の寛容さやキャラクターとの距離感の面白さを感じましたし、r-906さんの次の作品がさらに楽しみになりました。本日はありがとうございました。

r:ありがとうございました!

記事制作協力:合同会社SoundWorksK Marketing


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