2022.04.20

ボカロPとVOCALOID ねじ式さん編 〜休まないボーカリストと探す「メロディと歌詞の融合」〜

ヤマハが開発した歌声合成技術、「VOCALOID(ボーカロイド)」。2003年のリリース以来進化を続け、現在はVOCALOID5に。また、各社よりVOCALOID向けのボイスバンクが発売されています。歌声合成技術を用いて作られたバーチャル・シンガーが歌う音楽としてジャンル「ボカロ」が確立され、今では日々多くのボカロ曲が投稿され、愛されるようになりました。ボカロ文化を支えるボカロPとヤマハが開発した歌声合成技術VOCALOIDの出会いや関係性を紐解くスペシャルインタビューが「ボカロPとVOCALOID」。

今回は代表曲「フリィダム ロリィタ」を筆頭に、親しみやすいボカロ曲をハイペースにリリースされているねじ式さんにお話を伺いました。

ねじ式さんプロフィール

2013年8月6日に「六等星の夜」を投稿しデビュー。
初投稿以降、20作連続で毎週火曜日に新曲を投稿した事から「火曜日P」とも呼ばれる。作詞・作曲だけでなく、全ての楽器演奏も自ら行っているマルチプレイヤー。活動期間6年間の間に制作したオリジナルアルバムは9枚、参加したコンピレーションアルバムは10作品以上、動画再生サイトの総再生数はYouTube、ニコニコ動画を合わせて1200万再生を超える。また、各種大学、専門学校、高等学校のゲスト講師、講演、著作権に関するオンラインサロンのコメンテーターなど、講師業も積極的に行っている。

Official Website / Twitter

当時のボカロ曲はお店に並ばない美味しい果実

Y:本日はよろしくお願いいたします。まずはVOCALOIDとの出会いについて教えて下さい。

ね:VOCALOIDを知ったのは2009年くらいです。ニコニコ動画でVOCALOIDのコンテンツが投稿されている、初音ミクというのが歌っている動画が投稿されているというのを友達から聞いて知りました。

Y:最初に聞いたボカロ曲はどの曲だったか、覚えていますか?

ね:「メルト」だったと思います。その頃スクールで音楽を教えていて、そこで歌も教えていたんです。生徒の子たちの歌いたい曲がJ-POPからボカロ曲を持ってくるように変わってきたのを感じていて。で、「この機械の声なんなの?」って聞いて教えてもらいました。原曲以外にも色々な歌い手さんのバージョンがあるというのを教えてもらって、面白いなと感じました。

Y:ボカロ曲を聞いた時の印象を教えて下さい。

<当時のボカロ曲の印象を語るねじ式さん>

ね:いい意味で捉えてほしいんですけど、メジャーの曲がお店に並んでいる果実なら、当時のボカロ曲はお店に並んでいない果実みたいな。形は整ってないけど独特のおいしさというか、そんな印象でした。

もともとPerfumeとか電気グルーヴとかも好きなので、VOCALOIDの声そのものに対する抵抗はなかったです。ただ、正直に言うと僕は甲高い歌が苦手で(苦笑)。VOCALOIDって甲高い声なのかなとは思っていました。ボカロの世界という意味では、2000年代のJ-POPってある意味完成されていて、2009年頃には、もっと尖った歌詞や世界観の曲が聞きたいなっていう風潮があったと思うんです。そんな中で、かわいい女の子のキャラクター(初音ミク)が歌っているのにギターがギャンギャン鳴っていて歌詞もエグい、みたいな世界はすごく面白く感じました。

そんなボカロ曲の中でも「メルト」とか「ブラック★ロックシューター」はすごく面白いと感じたし、声も聞きやすかったんです。ただ、ボカロを取り巻く人達の熱量がすごくて、同じテンションで話ができる自信はなかったです。自分とは違うフィールドだと感じていました。

Y:ボカロ曲作ろう!っていう感じで出会った訳ではないんですね。

ね:やってみようとは思ったんですけど、VOCALOID Editorが当時Windowsだけだったので、できなかったんですよ。その頃Macを使っていたので。Windowsに乗り換えてみようというほどではなかったですね。

ねじ式誕生秘話 〜毎週投稿した日々〜

Y:乗り換えるほどではないと感じていたねじ式さんが、ボカロ曲を作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか。

ね:最初にボカロ曲を聞いてからは5年位後の話なんですが、名古屋でコスプレサミットっていうのが開催されていて、土曜日に友達と見に行ったんです。その時にいいなと思ったコスプレがミクさんで。コスプレで感動した後に一緒にビールを飲んでいたら、「ねじ式は曲も書けるしギターも弾けるし、ボカロPやってみたら?」って勧められたんです。自分の曲を思い通りに作るっていう意味ではバンドって結構大変だし、バンドもやめて曲を書く機会がなくなっていたというのもあって、ボカロPとして活動するのもいいかなって思ったんですよね。それで帰りにミクさんを買って、VOCALOID3を使って、翌週の火曜日に初投稿しました。

<購入した初音ミクのパッケージ>

ストックの曲をミクさんに歌ってもらって一丁上がり!って思って作ってみたら、全然しっくりこなくて。「これはミクさんに向けて曲を作らないといい作品にならないぞ」と感じたので、作詞、作曲、編曲、ぜんぶ3日で、最初からやり直しました。

Y:わずか3日で初投稿!色々なタイミングが合致した結果ねじ式さんが生まれたんですね。お名前にはなにかエピソードがあるのでしょうか。

ね:当時、ニコニコ動画で活動されている方ってカタカナと漢字みたいな、普通のバンドやステージネームではつけないような面白い名前が多かったと思うんです。なので、ひらがなと漢字でいいのないかなと思ってたら、実家の本棚に「ねじ式」っていう古い漫画があったんです(笑)。VOCALOIDのテクノロジーとアナログ感が入っていて、自分らしい名前かなって思ってつけました。

<当時の制作環境>

Y:初投稿からは毎週火曜日に投稿される日々が始まったと思いますが、その頃のエピソードを教えて下さい。

ね:最初の3日は寝てなかったですね(笑)。それから連続投稿していた2013年のことは正直よく覚えていないです、忙しすぎて。投稿直前までは朝ドラの「あまちゃん」を観ていたんですけど、投稿し始めてから観られなくなって、未だにちゃんとした結末を知りません(笑)。

Y:毎週投稿していた当時の苦労話を教えて下さい。

ね:VOCALOID3の頃は、編曲が終わったらデータを書き出してVOCALOID3に取り込んで歌わせるというフローだったので、編曲と調声が別の作業という感じで大変でした。VOCALOID Editor for Cubase(通称ボカキュー)が出た時は最高でした。ボーカリストにすでに完成した曲の歌を依頼していた感じが、バンドに入ってもらって一緒に曲を作れるようになった感じ。歌詞の世界観と曲の世界観を一緒に作れるのが画期的でした。今でも使っています。

休みたいと言わないのがVOCALOID

Y:VOCALOIDを使った制作特有の大変さはどんなところでしょうか。

ね:やっぱり調声ですかね(苦笑)。VOCALOIDは手をかければ魂のある歌い方をしてくれるんですけど、そんなに簡単に魂乗り移らないんです。「疲れた、休憩!」ってミクさんは言わないので(笑)、逆にこっちが先にいっぱいいっぱいになることはありますね。VOCALOIDを通じて鏡を見ている感じです。「っ」をどのタイミングに入れるかとか、そういうのはVOCALOID特有だと思うんです。[Gender]の調整とかも人間のボーカルディレクションとは異なる要素です。※[Gender]:声色を変更することができるパラメーター

<ねじ式さんの現在の制作環境>

Y:終わりなく調整できるVOCALOIDの調声、どうやって区切りをつけているのでしょうか。

ね:僕は定期的に曲を投稿したいタイプなので、締め切りを決めて作ります。それこそ当時は火曜日っていう投稿日が決まっていたので、逆算して作っていました。

Y:なるほど、大変参考になるお話だと思います!ちなみに、制作手法についてはボカロ曲以外との違いはあるのでしょうか。

ね:生身のボーカリストによっては「この歌詞の世界観は背負えない」とかあると思うんですよ。でもVOCALOIDって懐が深くて何でも背負ってくれるんです(笑)。そこが人間と違うところだと思うんですけど、だからこその魔法っていうのがあると思ってます。

Y:ねじ式さんのボカロ曲のこだわりを教えて下さい。

ね:歌詞とメロディがしっかり融合した曲にするというところです。ボカロ文化って歌詞をよく読む文化だと思うんです。難しい言葉を無理に使うっていうことではなくて、歌詞とメロディが同時に染み込んで感動するっていうんですかね。

自分の曲の歌ってみたが生まれた感動

Y:これまでたくさんのボカロ曲をリリースされていますが、ボカロという文化に関わって一番感動したことを教えて下さい。

ね:自分の曲の歌ってみたが投稿されたことですね。これまでの音楽人生で、自分の曲を全く知らない人が歌って、それを聞く機会ってなかったんですよ。みなさん原曲を参考にしつつ自分なりの歌い方で歌ってくれていて、それがすごく面白いなと感動しました。歌っている人ごとの曲の捉え方を知ることができるっていうのがすごく楽しいんです。

<歌ってみたを聴く楽しさを語るねじ式さん>

歌だけじゃなくて尺八で吹いてくれた人もいて、こんなに渋い曲になるんだ!って(笑)。歌ってみた、弾いてみたを投稿したり、イメージイラストを描いたり、みんな参加していいんだよっていう空気感がすごくいいし、大事だと思うんです。浦島坂田船のセンラさんとは僕の曲を歌ってくれたのがきっかけで仲良くなって、彼のソロアルバムに楽曲提供をしました。

Y:ボカロが色々な活動のきっかけになっているんですね。ボカロがなかったらどうなっていたんでしょうか。

ね:もう多分曲は書いてないでしょうね。音楽全体に対しても大きな影響があったと思います。湧き上がる感情のままに曲を書いていいんだと背中を押してもらったクリエイターは多かったと思いますよ。みんなクリエイターは基本恥ずかしがり屋なので(笑)。

Y:ねじ式さんの気に入っている、想い出深いボイスバンクを教えて下さい。

ね:「フリィダム ロリィタ」で歌ってもらった結月ゆかりですね。甲高い声が好きじゃないというのもあって低い声、吐息成分が多い声を探していたんです。巡音ルカがいいなと思って使い始めた時にうまく歌わせることができなくて、結月ゆかりを使ってみたらこれだ!ってなりました。初めて100万再生を達成した想い出深い曲です。

Y:ヤマハのボイスバンクで気に入っているものはありますか?

ね:VY1は仮歌にすごくいいです。あとはVOCALOIDの声が苦手という人に楽曲提供をする時とか、コーラスパートを教える時にVY1を使いますね。buzzG さんの「Fairytale」っていう曲をcillia さんがVY1でカバーしたものがあるんですけど、「なんていい声なんだ!」って思いました。これは本当にすごいんですよ。泣きました。

Y:最後に、これからボカロPになりたい人、VOCALOIDで曲を作ってみたい人にアドバイスをお願いします。

ね:最近は「楽器が弾けなくてもボカロPになれるぞ」っていう風潮があると思うんですけど、音楽の中にボカロという文化があると思っているので、音楽も同時に勉強して楽しんで創作してほしいなと思います。ちょっとピアノ弾いてみるとか、ちょっとギター弾いてみるとか。ボカロというジャンルにとらわれすぎずに色々挑戦してみてほしいですね。

Y:音楽の懐も広くなりそうですね!本日はありがとうございました。

ね:ありがとうございました、とても楽しかったです!

記事制作協力:合同会社SoundWorksK Marketing


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