2022.12.22

ボカロPとVOCALOID buzzGさん編 〜 VOCALOIDを経てもう一度音楽の世界へ 〜

ヤマハが開発した歌声合成技術、「VOCALOID(ボーカロイド)」。2003年のリリース以来進化を続け、現在はVOCALOID:AIも搭載したVOCALOID6に進化。また、各社よりVOCALOID向けのボイスバンクが発売されています。歌声合成技術を用いて作られたバーチャル・シンガーが歌う音楽としてジャンル「ボカロ」が確立され、今では日々多くのボカロ曲が投稿され、愛されるようになりました。ボカロ文化を支えるボカロPとヤマハが開発した歌声合成技術VOCALOIDの出会いや関係性を紐解くスペシャルインタビューが「ボカロPとVOCALOID」。


今回は「古き良きJ-POP」をルーツにロックなバンドサウンドのボカロ曲をリリースするbuzzGさんにお話を伺いました。

buzzGさんプロフィール

音楽家。
鋭いギターサウンドとそれにコントラストされる美しいメロディと繊細で奥深い世界観を持つ歌詞が特徴的。VOCALOID楽曲の代表作は「しわ」、「アルビノ」、「かくれんぼ」、「ワールド・ランプシェード」など。
VOCALOID楽曲を発表する一方で、様々なアーティストへ楽曲を提供し高い評価を得ている。

メルトで出会ったVOCALOID

Y:本日はよろしくお願いいたします。最初に、VOCALOIDとの出会いについて教えて下さい。


B:2007年頃ですね。ボカロPになる前から音楽活動をしていて、バンドをやっていたんです。バンドでドラムをやっていた友達から「こういうのがあるよ」と、当時リリースされたばかりのsupercellのryoさんの「メルト」を聴かせてもらったのが始まりです。当時はニコニコ動画も知らなかったですね。

Y:最初にボカロ曲を聴いた時の印象を教えて下さい。


B:もちろん楽曲は良いなと思ったし、技術的な興味もあったんですけど、当時は自分の音楽活動や身の回りのことで精神的にいっぱいいっぱいで、「こんなのあるんだ」位に頭の片隅に置く程度でした。


Y:その後VOCALOIDの世界に入ったのはいつ頃でしょうか。


B:最初に聴いて以降、しばらく全く聴かない期間がありました。メルトを聴いてから2年後くらいでしょうか、バンド活動を辞めて時間ができたのでニコニコ動画を見始めたんです。オススメ動画でボカロ曲を聴き始めるようになった頃、ドラムの友人が初音ミクを買って自分で作ったボカロ曲を聴かせてくれるようになったんです。そこで、ああ、いいなと思って。一回音楽を辞めてクールダウンの期間があったからこそ、最初にボカロ曲を聴いた時よりもフラットに受け入れられる状態になっていたんだと思います。人とコミュニケーションを取りながら音楽活動をすることに心の底から疲れていたので、VOCALOIDという一人で歌物の音楽を完結させられる世界があることと、どんな曲だろうと受け入れてくれる大きな文化の器があることを知ったのは大きかったですね。それがきっかけで、友人が初音ミクを使っていたから、じゃあ自分は別のボイスバンク にしようとGUMIを買って、DTMと一緒にVOCALOID を始めました。


Y:DTMとVOCALOIDを同時に覚えるの、なかなか大変そうですね。


B:夢中になれるものを見つけた!という感じだったので、テレビゲームを与えられた子供というか、あまり大変だった記憶がなくて、いつの間にかできるようになっていた感じです。元々新しいものが好き、ガジェット好きなので、すぐに夢中になれたのだと思います。

バンドをやっていた当時のお写真

人生を変えたボイスバンク「GUMI」

Y:VOCALOID制作初期の思い出を教えて下さい。


B:綺麗に発音してくれなかったり思った以上におてんば娘だなと思ったりもしましたが、そういう失敗や苦労も含めて面白くて夢になっていたなと思います。新たなおもちゃを手に入れた子供のようでもあるし、娘を見る親のようでもあったなと思いますね。


Y:どこが一番おてんばでしたか?


B:子音の発音がうまくできなくて、これをどうしたらいいんだろうとトライ&エラーを繰り返していました。当時は情報も少なかったので大変でしたね。最初の4曲くらいまではGUMIで、ベタ打ちでもそこそこ歌ってくれたんです。ところが他のボイスバンクを使い始めると全然うまくいってくれない。どうやったら上手くいくかなと色々なボイスバンクを使ってみて、自分なりの手法を見つけてきた感じですね。


<ニコニコ動画にある最も古い投稿は2009年に投稿されたGUMI曲の「LAST YEAR」>


Y:最初は初音ミクではなくてGUMIだったんですね。


B:友達が初音ミクだったので色違いを買った感覚だったんですが(笑)


Y:ミクに乗り換えた時に発見はありましたか?


B:ナチュラルなのはGUMIだなと。逆にミクを使い始めて、ミクだったらこういう曲かな、GUMIだったらこういう曲かな、みたいなものを描くようになったと思います。最近はリンちゃんとかも多いですね。曲によってボイスバンクを変えている感じです。


Y:曲ができてからボイスバンクを選ぶのと、ボイスバンクにあわせた曲を作るのと、どちらが多いでしょうか。


B:圧倒的に曲ができてから選ぶことが多いですね。キャラクター性にあわせて曲をチューニングすることは少ないです。曲ができてからそれに合うボーカリストを選ぶ感覚に近いかもしれません。ボイスバンクの中で好き嫌いもなく、パリっとした感じがいいなと思ったらリンちゃんを使ったり、ちょっと切ない感じで歌ってほしい時はGUMI。ミクはフラットなのでバラードも歌えますが、あまり
エモーショナルすぎるときはちょっと違うかな、とGUMIを使ったりしますね。


Y:一番好きなボイスバンクを決めるとしたら誰ですか?またその理由を教えてください。


B:一番思い入れが強いという意味ではGUMIですね。最近は使用頻度が減りましたが、良い意味で人生を狂わされたボイスバンクです。

YouTubeにある最も古い投稿は2014年に投稿されたGUMI曲の「しわ」

おすすめポイントは生っぽくて焦燥感のある歌声なので、エモーショナルなものと凄く相性がいいことですね。自分がもともとヘビーロックやエモーショナルなジャンルをやっていたので、その延長線上でボカロを始めた時に、最初のチョイスとして凄く良かったと思っています。最初に出会ったのがミクだったら全く違うタイプのボカロPになっていたかもしれません。出会う順番も大事ですよね。

VOCALOIDが好きでつながった共同体が好きだった

Y:VOCALOIDに関わるようになって最も感動したことを教えて下さい。


B:VOCALOIDという同一カテゴリでの新たな人間同士の出会いですね。例えば、ロックバンドをやっていたらレゲエを作ってる人と出会うことってあまりないと思うんですが、VOCALOIDというカテゴリの中では全く違う畑の人と出会えたり、さらにはイラストレーターや動画クリエイターの方と話せる機会がある。違う分野の人と話ができて一緒に作品作りができるのは凄いことなんじゃないかなと。VOCALOIDが接着剤になってくれることに感動しますし、それがVOCALOIDを始めた当時の自分にとっても必要なことだったと思います。

Y:VOCALOIDに関わるようになって、ご自身の音楽活動にはどんな影響がありましたか。


B:いろんな他人を知って、それが鏡になるように自分のことを知っていった、というのが大きく自分に影響を与えた部分かなと。「VOCALOIDが好き」ということだけで繋がった共同体が好きだったんだと思います。勿論初音ミクというキャラクターも愛していますが、それ以上に初音ミクという幹があって、そこに大地ができあがっていったという文脈が好きなのかなって。独立国ですよね。コミュニティの中で自然と誰かを信頼して任せることができたり、様々な偶然が重なったり出会ったりして、共同体のようなものが自分を変えていったなとは感じていますね。


Y:VOCALOIDをきっかけにしたコミュニケーションが自分を変えたということでしょうか。


B:例えばコミュニケーションや他者理解から遠ざかった孤独こそ天才や作品を育てるという考え方もあるじゃないですか。そういうスタイルに心酔した時期もあったんですが、自分は孤独の寵愛を受ける天才ではないだろうということに気づいて。人に生かされていたり、弱かったり卑しかったり、都合よく孤独を愛したり。そういう中途半端な白でもなく黒でもない様々な自分を受け入れて吐き出せるようになってきたという変化が一番大きいと思います。その変化によって、バンドのように誰かとの深いコミュニケーションを要求され、誰かと一緒に音楽を作ることにも苦手意識がなくなってきたのかなと思います。

分身のような存在でもあるVOCALOID

Y:人間に曲を作る時とVOCALOIDで作る時の違いやこだわりがあったら教えてください。


B:あまり器用なタイプではないのではっきり意識はしていないんですが、出来上がった曲を聞くと、無意識で分けてるんだろうなという感覚になる時はあります。人間のシンガーが歌うときは生っぽいストリングスを入れたくなるけどVOCALOIDだとシンセがいいな、とか。あとはキーレンジはVOCALOIDのほうがどうしても広くなります。


※ストリングス:バイオリン等の弦楽器セクションの音。
※シンセ:シンセサイザーで作った電子的な音の総称。
※キーレンジ:ボーカルのメロディにおける最も低い音から高い音までの広さ。


Y:VOCALOIDで出した曲を人間に歌ってもらおうと考えたことはありますか?


B:自主制作やカバーではやっています。もしかしたらボカロ曲は自分が歌っているという感覚に近いのかもしれません。自分のボカロ曲は、「buzzGさんが歌っているみたいだね」と言われるんです。自分の歌い方の癖がそのまま反映されているみたいな感じですね。自分の生き写しのような存在としてVOCALOIDがいる、という感じはあります。歌詞もミクに歌ってほしいことではなくて自分が歌いたいことを歌詞にしている感覚です。

buzzGさんの制作環境

Y:ご自身の分身のような存在でもあるんですね。男声のVOCALOIDを使わないのはなぜでしょうか。


B:なんで..ですかね?なんで使わないんだろうかと深く考えたことがなかったなと今聞かれて思いました。今後はあるかもしれません。ゼロではないですね。


Y:楽しみが増えました。ボカロと一緒に歌ってみたいと思ったことはありますか?


B:実は何曲か、うっすら入っている曲はあるんです。オクターブ下でちょっと歌っています。でも自分が主役で出て来る曲は無いです。面白いかなとは思っているんですけど、自分の歌に自信がないというのもあります。でもボカロネイティブのリスナーさんたちは結構そういうのもすぐ受け入れちゃうのかな?それこそプロジェクトセカイでは人間とボカロが一緒に歌ってたりするじゃないですか。そういう感じで人間とボカロの共存は全く抵抗なく受け入れられるのかとは思ってはいます。ボカロネイティブリスナーが制作の中心世代になったらまたどう変わっていくのかも興味深いですね。

外部のスタジオでのレコーディングをすることもあるそうです

Y:最後に、これからボカロPになりたい人、VOCALOIDで曲を作ってみたい人にアドバイスをお願いします。


B:13年ほど活動してきて、1曲ヒットするより長く続けていくことの方がずっと難しくてかっこいいことなんじゃないかと思うんです。数字だったり名声だったり、他人に左右されるものをモチベーションにするのは楽だとは思うんです。でもそうではなくて、自分だけの誰にも揺るがされないような絶対的な自分軸があることのほうが、太く長く続けるためには重要なんじゃないかなと思います。ボカロ文化は、プロアマの優劣なく全て共存しているのが凄く良い世界だなあと思うので、自分の柱を持って楽しんで活動することが大事だと思います。


Y:お話を聞いてきて、ボカロの世界の寛容さを改めて感じましたし、buzzGさんの今後の曲も楽しみになりました。本日はありがとうございました。


B:ありがとうございました!

記事制作協力:合同会社SoundWorksK Marketing


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