2023.05.09

[符色 発売] 歌声の主 philo スペシャルインタビュー ~ボカロとともに生きている~

ヤマハと音楽コラボアプリ「nana」とのタイアップで2022年2月より開催された「あなたの歌声がVOCALOIDに!?ボカロになれるオーディション」。3,000件を超える応募者の中から見事グランプリとなったphilo(フィロ)さんの歌声を元にした「符色」(ふいろ)というボイスバンク(VOCALOIDの歌声ライブラリ)がついに発売されました。

VOCALOID x nana 歌って応募!ボカロになれるオーディション 特設サイト

philoさんは当時別アカウント瀧 田子太(🥕)さん名義にて以下の音源を投稿し、審査員満場一致のグランプリを獲得しました。

クノイチでも恋がしたい/みきとP

その他の受賞者の方は以下の記事で確認できます。
https://nana-music.com/blogs/vocaloid-audition-2022-result/

今回は、「符色」の声の主philoさんをお迎えし、オーディションやVOCALOIDとの関わりについてお話を伺いました。

歌が好き、でも人前で歌う勇気のない自分の発信場所はインターネットだった

Y:まずは現在の活動内容や音楽歴などを教えてください。

p:主にYouTubeとnanaでカバー動画やオリジナル楽曲を歌っています。あとはピアノのアレンジをやらせていただいたり、YouTubeチャンネルのアニメーションで声をやらせていただいたりしています。メインは歌ですが、インターネットで色々やりたい...ネットで色々やっている人、です(笑)。

Y:音楽活動のきっかけをお聞かせください。

p:音楽の発端はピアノを習っていたことです。歌も好きだったんですけど、趣味の一環でしかなくて、自分が歌手になりたいという願望は一切なかったです。

ご自宅のピアノ

音楽は本当に好きで、音楽に関する職業に就きたいなとは思っていたんですが、なにぶん人前にでるのが苦手なので…(笑)だから歌手は考えたことはなかったです。インターネットが無かったら歌っていなかったかもしれないですね。

Y:ボーカルでステージに立った経験はあるのでしょうか。

p:一瞬だけ(笑)。学生の頃です。歌を聴いてもらいたいというより”生バンドで歌いたい”という気持ちが強くて。めちゃめちゃ緊張はしたけど、セッションがしたい、音楽がしたいという気持ちが、人前に出たくない気持ちに勝ちました。

貴重なphiloさんのライブ写真

「ボカロになれるオーディション」応募のきっかけはnana。

Y:”歌ってみた”を投稿することになったきっかけを教えてください。

p:もともとはnanaで趣味として歌っていたのが始まりなんですが、本格的になったきっかけは、nanaの「れるなな(※)」というイベントでグランプリをいただいたことでした。

一触即発☆禅ガール/れるりり

受賞をきっかけにTwitterの注目が上がったといいますか、聴いてくれる方が増えてきて、カバーの再生数がちょっとずつ増えてきまして。ある時、Adoさんの「踊」を投稿したら、物凄く伸びてしまって、そこからですね。

最初は自己満足で歌っていただけだったので、こんなはずじゃ…どうしよう…と思ったりもしたんですが(笑)でも私なりに悩みつつ、頑張ってみてもいいかもしれないな、って。生まれ変わった気持ちで頑張ってやってみようと思いました。

※れるなな・・・ボカロP「れるりり」さん10周年記念で開催されたnanaのオンラインイベント。
https://nana-music.com/blogs/n4113aade43b7/

Y:今回の「ボカロになれるオーディション」への応募は生まれ変わったあとなのでしょうか?

p:そうですね、生まれ変わった後です(笑)。このオーディションは挑戦というつもりはあまりなくて、”nanaが凄いことやってるらしいぞ”みたいな噂を聞いて、盛り上げる気持ちでやってみたんです。凄い人がたくさん応募されているのを見て、それなら私も大好きなnanaを盛り上げよう!と思って歌ったんですよね。

でも、オーディションの規約が一発録り無加工ということだったので、恥ずかしいなと思ってサブアカウントから応募したんです。

ボカロが大好きな自分がボカロになる!?
「符色」は自分であって自分ではない、不思議な存在

Y:今までの音楽活動の中で、ボカロ曲はどのような存在でしたか?

p:オーディションに応募する前からボカロと共に生きてきた感じです。ニコニコ動画で育ってきたのでボカロ曲は日常の中の音楽として聴いていました。J-POPと何ら変わらない気持ちで歌っています。

Y:最初に聴いたボカロ曲を教えて下さい。

P:最初はryoさんの「メルト」だったかな…?ボカロを聴く前は「機械が歌う時代になったんだ、へぇ~」と斜に構えていたところもあったんですけど、一度聴いてみたら、”なんだこの面白い文化は!?”と。自分の意見が変わったことに自分で衝撃を受けて、それで一気にのめり込みました。

上手く言えないんですが、VOCALOIDって意思を持たないというか…人間ではない第三者っぽい存在だったことに救われるものがあったのかもしれません。人間じゃないことの面白さと救いというか。

Y:きっとこのオーディションも出会うべくして出会ったんですね。「ボカロになれるかもしれないオーディション」はどんな印象でしたか?

p:とんでもないオーディションだなと思いました。いいの…?みたいな(笑)。

Y:そしてグランプリを受賞されたわけですが、受賞時の感想をお聞かせください。

p:なんでこんな名前にしちゃったんだろう、サブ垢でごめんなさいって思いました(笑)。でも、自分の声がVOCALOIDで残るんだって実感がじわじわと沸いてきて…ボカロが大好きな人間がその慣れ親しんだ存在になれるとは思っていなかったので、不思議な気持ちもありましたし、やはり嬉しかったです。自分として世に出るのではなく、自分の声が楽器として世に出るなんて体験したことないので…いまだにどういうことなんだろうと思っています(笑)。

自分が死んで、自分を覚えていてくれている人も死んだ時に、自分が残せるものってそんなにないじゃないですか。でもそんな中で、VOCALOIDは残るな、って。音楽も残りますけど、デジタルアバターみたいな。やっぱり不思議な感覚です。

Y:完成した符色の声を聞いた時の印象を教えて下さい。

p:自分の声のはずなんですが、ちょっと自分とも違うテイストにもなっていて、それが面白かったです。確かに私だ、でも私じゃない、みたいな。

完成したphiloさんのボイスバンク「符色」をVOCALOID6で使用したところ

あと、裏声の概念が凄く良いなと。もしかしたら裏声が一番私に近いかもしれないです。このテイストは今までのボカロにはないかもしれません。

Y:私もテスト版を何度か使ってみたんですが、これをどうやってphiloさんっぽくしようかというマインドを掻き立てられる仕上がりですよね(笑)。

p:歌わせ方の工夫は私もやりました!音程をしゃくったり色々していくと私っぽくなった!みたいな瞬間がありました。使い方次第で結構変わるかもしれないなと思っています。

Y:凄く夢が膨らむボイスバンクだなと思いました。ちなみに、これまでVOCALOIDの打ち込みはされたことはあるんでしょうか。

p:大学のパソコンにVOCALOIDがあったので、少し作曲をしてみたこともあったんですが、本格的にやったことはなかったです。今回オーディションの副賞でVOCALOID5を頂いたのをきっかけに色々いじったりしています。難しいと感じることもありますが、凄く面白いですね。

Y:今後、歌はご自分で歌い続けるのでしょうか、それとも自分のボイスバンクに歌わせるのでしょうか。

p:一緒に歌いたいです!自分とはまた違う存在なので、掛け合いとかしてみたいですね。「符色」にコーラスを任せようかなとか、友達みたいな付き合いができるかな?なんて考えたりもしています。

”自分がボカロになる”という体験で得たものとは?「自分探し」にもなったVOCALOIDレコーディング秘話

Y:ボイスバンクが完成するまでに色々あったと思うんですが、思い出があれば聞かせてください。

p:ボイトレを受けさせてもらったのが、グランプリに選ばれたのと同じくらいありがたかったんです。通常のボイトレではなくて自分の声の特徴をひきだすための「VOCALOID特化のボイトレ」だったんです。「自分の声ってこうだったんだ!」と分析をしながら自分の声を見直す機会になって、凄く面白かったです。自分の声について今まで言語化してくださる方がいなかったので、はっきりと長所を知ることも出来ました。だから、録音は大変というよりもめちゃめちゃ楽しかったです。

リハーサルスタジオでボイストレーニングの日々

Y:どのような特徴があると言われたのでしょうか。

p:サ行などの子音が強いらしいのですが、海外の歌をたくさん聴いて歌っていたので、そういうのも関係しているのかなと。あとは、ちょっと捻くれがあるよねって言われて(笑)。ちょっと斜めに構えるというか、可愛い曲でもちょっと尖ってる、と言われて自分でも確かにそうだよね、って納得しました。

Y:レコーディングはいかがでしたか。

p:レコーディング自体はほぼ一発録りでした。的確なディレクションをいただいて、レッスンの地続きでのレコーディングだったので、スムーズに進んだ感覚があります。

録音機器の設定

Y:何曲くらい歌ったのでしょうか。

p:25曲、1日5曲くらいです。ハードに見えますけど、レコーディングが一瞬で終わって逆にびっくりしました。普通のレコーディングじゃないなと思って、それが面白かったです。

Y:どのようなところが普通のレコーディングと違うと感じたのでしょうか。

p:普通のレコーディングはパンチインなどで少しずつ録るとか、1曲ずつ時間をかけて試行錯誤という感じだと思うんですが、今回のレコーディングは、「カラオケ気分で好きに歌ってください」と言われたんです。ボイトレで歌う曲を決めてレッスンしてからレコーディングに臨む、というスタイルだったので、ボイトレの段階で大事な部分は終わっていたのだと思います。他ではできない経験だったのでありがたいなと思いました。きっとこの先もない経験ですよね。

Y:出来上がった「符色」ですが、どんな歌を歌わせてもらいたいですか。

p:自分が歌っている曲も、自分が歌えない曲も、どっちも聴いてみたいですね。あれ?でもそうすると私の仕事が取られちゃうのかな…?複雑な気もしてきました(笑)。自分ではシティポップ系、温度感低めの曲やエモ系とかもあまり歌っていないので、そういうのを聴いてみたいかもしれません。今後の参考にします(笑)。好き勝手に遊んでいただけるのが一番嬉しいかもしれません。

Y:この企画を通じて一番変わったと感じる部分はどこでしょうか。

p:今まで曲中心で歌い方を考えていた部分があって、自分の声があまり分からなかったんです。でも、ボイトレで自分の声を言語化してくださったおかげで凄く勉強にもなったし、自分を客観視できるようになりました。自分探しをしていただいた感じですよね。今回のグランプリは、音楽以外に人生経験としても得たものがあったと感じています。

レコーデイングに意気込むphiloさん

「符色」を通じてさらに広がるボカロの世界に

Y:今後の活動の目標やビジョンがあれば教えてください。

p:いろんなことをやりたいですね。今まで芯がなくブレてしまうことが怖かったんですけど、今回のボイトレで自分の声を知れて客観視できるようになったことで、芯が固まったのかもしれません。ブレてもいいな、ブレても自分はあるな、と思えて。だからもっとピアノも作曲もしてみたいし、いろんなことをやってみたいです。

Y:今後歌ってみたい曲はありますか?

p:めちゃめちゃありますよ!特にボカロは長年たくさん聴きすぎて、歌いたい曲がありすぎてなかなか追いつかないです。

Y:最近の一押しのボカロ曲があれば教えてください。

p:うわー!難しい…!!(しばらく考え込み)一つ選ぶなら、最近は平田義久さんの「ナイトドライバー」という曲がめっちゃ好きです。

Y:最後に、歌い手さんやボカロ好きの方、またphiloさんのファンに向けてメッセージをお願いします。

p:リスナーさんの中で「philoさんのボカロが出るならボカロを始めてみようかな」と言ってくださった方がいて、私の声が作曲をはじめるきっかけになったらありがたいなと思ったんです。

小さい頃から本当にボカロが大好きな私としては、もっといろんな形でボカロが広がればよいなと思っていますし、弾いてみた、歌ってみた、ボカロPさん、ボカロに関わるみんなでボカロを通じてもっともっと自由に楽しめたらいいなと思っています。

そのボカロの世界に私の声が加わることができるのはいまだに不思議ですが、やっぱり嬉しいですし、「符色」で自由に好き勝手に遊んでいただけたらさらに嬉しいです。

Y:「符色」をきっかけに、音楽、そしてVOCALOIDに触れてくれる方が一人でも増えると嬉しいですね。本日はありがとうございました。

P:ありがとうございました!